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Jリーグの放映権料が上がった背景と使い道。 [J-League]

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放映権料が上がった背景と使い道。コンサルがJリーグの分配を考える。
2016年8月9日

2100億円 (JリーグがDAZNから受け取る、2017年から10年間分の放映権料)

 7月20日、Jリーグと、Perform Group(以下、パフォーム)が提供するスポーツのライブストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」は、2017年からの10年間で約2100 億円の放映権契約を締結したことを発表しました。つまり来年からJ1、J2、J3の全試合がDAZNにより生中継されることとなったのです。

 Jリーグがこれまで「スカパー!」と契約してきた放映権料(地上波放送および無料BS放送を除く)は年間約30億円とされています。これが来年度以降の 10年間は、年平均で約210億円となるため、制作費など諸条件を考慮に入れない単純計算ではいっきに7倍となるわけです。

 なぜ、このような大型契約が実現したのか。そして、大きな原資を手にすることとなったJリーグはこれからどう変わっていくのか。

 私は現在Jリーグの理事を務めているため、ここではあくまで個人的な見解を述べさせていただきたいと思います。

「放送ではなく、通信で」スポーツを届ける。

 Jリーグの放映権料がこれほど跳ね上がったのは、もちろんそれだけの投資価値があると判断されたからであり、その評価は歓迎すべきです。私はそれに加えて、パフォーム側の“ある事情”が高額契約を後押ししたのではないかと想像します(契約交渉には一切関わっていないため、あくまで推測です)。

 パフォームは、ワーナーミュージックなども保有するアメリカの投資会社アクセス・インダストリーズの傘下にあります。つまりパフォームはその企業活動を通して、未来にわたって自社の事業価値が向上していく筋道を示すというミッションを背負っています。そのビジネスの根幹は、スポーツを「放送ではなく、通信で」届けること。それはDAZNのブランドコンセプト――「DAZNがルールを変える 好きなスポーツをいつでもどこでも楽しめる自由を全てのファンに」――に示されている通りです。

 パフォームは、月間ユニークユーザー数が6000万人を超えるというサッカー情報サイト「GOAL」の運営や、スポーツニュースに特化した「ePlayer」と称する映像配信サービスなど、世界中で事業を展開しています。ただ考えてみると、「スポーツのライブ映像を放送から通信に切り替えていく」というアジェンダを強く印象づけながら実現できる国は、実はそう多くないことに気づきます。






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DAZNがJリーグを選んだ、積極的、消極的な理由。

 たとえばアメリカの4大スポーツは、ESPNやCBSといった大手放送局が非常に高額な放映権料を各リーグに支払っており、放送局に別れを告げてネット中継のDAZNに移行するというのは、少なくとも今の段階では非現実的と言わざるをえません。欧州サッカーも、競合が多く、放映権はすでに高騰しています。スポーツ視聴文化の成熟した国で、放映権を手に入れ、放送から通信へとシフトさせていく作業は、リーグと放送局の関係性や資金面などの理由により、決して容易ではないのです。

 さらにパフォームが事業を展開していくうえでは、その市場が整備された通信網を有していることも重要な条件になります。

 通信網の発達した経済大国・日本にあって、「スカパー!」との契約最終年を迎えるJリーグは、パフォームが自社の革新性をアピールしつつ成功例をつくりあげ、今後のグローバルな事業拡大への第一歩を刻む市場としてうってつけだったのではないでしょうか。

 また今回の放映権交渉に(報道が事実とすれば)ソフトバンクが加わったことも、パフォームの提示金額に影響を与えたはずです。バスケットボール男子「B リーグ」にネット放映権込みのスポンサー契約で4年総額120億円(推定)を支払うというソフトバンクの“金銭感覚”を見せつけられたパフォームは、J リーグの価値算定をやり直すことになった、かもしれません。

地上波やBSはこれまで以上に制限される可能性。

 今回の契約により、来季以降のJリーグ中継の視聴方法はインターネットを介したDAZNが中心となります。ただ試合数は限定的ながら、別個の契約に基づいて地上波やBSで放送される試合はあるはずですし、パフォームがサブライセンスを与えることによって、「スカパー!」でも視聴できる可能性は十分にあります。しかし、それはあくまでパフォームの判断次第であり、DAZNの浸透を図りたいパフォームとしては、「放送」を介した中継試合数に一定の制限をかけるであろうこともまた予想されます

 そして本質的な問題は、今回の放映権契約によって大幅な増収を約束されたJリーグが、その資金をどう活用するかです。

リーグ戦で上位に入ったクラブに手厚い分配も?

 各クラブへの分配金を均等に増やしたり、リーグとして大物選手や大物監督を招聘したりと、いろいろな考え方があるとは思いますが、個人的には、トップクラブへの集中分配がなされるのもおもしろいのではないかと考えています。

 たとえばJ1クラブへの分配金を現在の約2億円から3億円に、J2やJ3クラブへの分配金も一定程度ベースアップしたうえで、残りの資金をJ1年間王者と天皇杯優勝チームの2クラブに思いきって分配するアイディアです。

 スペインのリーガ・エスパニョーラにおけるバルセロナやレアル・マドリーのような、アジアあるいは世界の強豪と渡り合えるクラブをつくりだし、リーグ発展の牽引役となってもらうのです。

 しかし、特定のクラブに一極集中的に資金を分配する案がすぐには受け入れられがたいのも事実でしょう。そこで「トップクラブへの分配金に厚みをもたせる」、「下位クラブも躍進を果たすための原資を手に入れることができる」、この2つを両立させうるような資金分配のあり方を考えてはどうでしょうか。

同じ2億円でも、クラブによって価値は違う。

 最初は平等分配からスタートするとします。受け取れるのは同じ金額でも、予算規模の小さいクラブ(下位に沈みがちなクラブ)ほど、ブースト効果は大きく働くことになります。昨年度の売上が60億円超でトップだった浦和と、15億円あまりで17位だった湘南とでは、たとえば同じ2億円でも、その経営的なインパクトはまったくと言っていいほど違います。もし昨年の湘南にあと2億円の予算があれば、遠藤航選手(浦和へ移籍)や永木亮太選手(鹿島へ移籍)ら主力メンバーの移籍に歯止めをかけることができたかもしれません。

 均等分配の恩恵を原動力として、下位から上位へと居場所を変えるチームが出てきてほしいというのが1つのシナリオです。それを前提に、3~4年後には、均等分配をやめて、たとえばACL出場権を獲得したトップ4クラブへの重点的な分配に移行します。3年前は下位に喘いでいたチームがトップ4に食い込んでくれば、ここでさらに大きな資金を手に入れ、チーム力をより充実させることができるようになる――そんなチャンスをJリーグが意図的に用意するのです。

契約金額に見合う成果を出さなければいけない。

 ブンデスリーガの王者バイエルンと、一時は下位に沈みながらも復活を果たしたドルトムント、この2クラブをイメージするとよいかもしれません。トップがさらに強くなると同時に、夢を掴んで這い上がってくるクラブが現れる。そんな日本版バイエルンと日本版ドルトムントのようなクラブが、Jリーグはもちろん、アジアでも活躍するようになるとJリーグのコンテンツとしてのパワーも増すに違いありません。

 パフォームとの契約金額の大きさは、彼らの期待の表れであると同時に、Jリーグに課された大きなプレッシャーでもあると思います。コンテンツとしてどう成長を果たし、大型契約に見合った結果をどう出していくのか。私がここに述べたのは一つの案にすぎませんが、今後Jリーグで議論を重ね、未来につながる投資をしていかなければならないと強く感じています。

 (構成:日比野恭三)

(「スポーツのお値段」並木裕太 = 文)






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